時は、後に「サライの時代」と呼ばれる、比較的平和な時代。
舞台は中つ原ヴェーダ。三つの大国と、無数の小国よりなる地。
小規模の争いこそあったものの、ヴェーダ全体を揺るがすような大きな騒乱はついぞなく、人々は平穏を享受しているかのように見えた。
しかし、時が積み重なるにつれ、人々は国を腐らせ、歪ませていく。ゆっくりと、だが確実に、新たなる時代への兆しが芽生えていく。けれど、新たなる時代がより良い時代になるとは、限らない。
そして。
大山脈の奥深く、聖山を頂く国、リムアース聖王国。
その統治者であり、予言者でもあったティーリア女王は、その死の前に、一つの予言をする。
このヴェーダに、百の星が昇る。
星達はいつの日かこのリム・アース聖王国に集い、ヴェーダにやがて訪れる暗黒の時代を救うだろう、と。
そして、彼女の予言は、娘のアーシュレイラ王女に受け継がれ、アーシュレイラはその力をもって星を導く事となる。
各国、各地方、各都市で、百の星は自分が「星」である事を知らぬままに、他の星と巡り合い、また別れ行き、また集っていく。そして、アーシュレイラや彼女に縁のある者達によって、彼らは自分が「星」である事を知っていく。
だが、多くの「星」にとって、それは関係の無いことだった。自らの周りに迫りつつある危機、そして苦難に立ち向かっているというのに、どうしてそのような予言に耳を傾けられるものか、と。
彼らは知らない。自分達が立ち向かっているものが、やがてサライ・・・戦士に休息を与え、やがてその戦意を鼓舞し、戦場へと送り出す女神・・・の時代の終焉という、大きな流れへとつながっていく、小さな流れの一つである事を。そして時代の終焉が、星としての運命へとつながっていく事を。・・・
つまりは、世界を救う、百人の英雄たちが現われ、活躍した「時代」を描く物語なのです。
現在は百星の一人一人が登場し、リム・アース聖王国での集結へとつながっていく、導入部が描かれています。
百星はそれぞれ出会いを繰り返すものの、いつ、どこで、どのように他の「星」と遭遇するのか、どのように自分の運命を知り、リム・アース聖王国へと旅立つのか、まさに神のみぞ知る。仲間や身内、友人として星同士がつながっている、という事もある一方、星同士で敵対したり、反発したり、という事もあります。
それでも、互いの間に「何か」を感じ取る。
この話の成功しているところは、話の核である、予言の不安定さだと思います。
アーシュレイラ姫が夢や幻で語りかけたことに現実味や面白味こそ感じても、「んなこと知った事か」と思う人間の、なんと多い事か。それぞれの事情で、リム・アース聖王国どころか、住んでいる所から離れる事さえできない事も稀ではありません。実現する事は分かってはいるのですが、「百星は本当にリム・アース聖王国に集結するのか?」と首を傾げたくなります。
それでも、読み返してみると、巻数が進むごとに、少しずつリム・アース聖王国への道を進んでいるのを感じます。それは今いる場所から追われたり、逆に離れたりする事を意味するのですが、それでも、未来がどうなるか分からないのに、彼らの進む一歩がとても力強く感じられるのです。
やがて、リム・アース聖王国への一歩を踏み出す「星」も出てくるでしょう。
作者は「エフェラ&ジオリラ」「三剣物語」等で有名なひかわ玲子先生。
挿絵は一巻、二巻はうたたねひろゆき先生、三巻以降はひさいちよしき先生です。(ただし、ドラゴンマガジン掲載時における「サラディガの妖星」の挿絵は円先生、「ル・ルーの五乱星」はうたたねひろゆき先生、「ロイエーヌの風」はひさいちよしき先生がそれぞれ担当されています)
富士見書房の富士見ファンタジア文庫から発売しております。
さて、この項の最後に。
この物語では、常時、
「人名・地名募集中」
だそうです。
あなたが考えた人名・地名を書いた手紙をひかわ先生に出すと、運が良ければ本当にその名前が「百星聖戦紀」で使用されます。採用者はあとがきに名前が載りますし、重要人物の名前や物語の舞台となった地名として採用された事も少なくありません。あなたもあとがきの応募要領を読み、是非送ってみませんか。
ちなみに私も応募しました。運良く採用されたら、こっそりとお知らせしようと思います。
各巻の題名
第一巻「イルディガルの風雲」
第二巻「ローゼンの天使」
第三巻「サラディガの妖星/ル・ルーの五乱星」
第四巻「ルーンガルドの華」
第五巻「紅海の七星」
第六巻「ロイエーヌの風/女神ミルラの戦士」
第七巻「女神の涙」
第八巻「群星、集う!」
第九巻「宿命の絆」
第十巻「リム・アースの空へ!」
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