「はい、どちら様ですか」
「もしもし、アスカちゃん?」
「あ、ママ。久しぶり」
「久しぶり。特に用事はないんだけれどね。どう、そっちの様子は」
「もちろん、何の支障もないわよ」
「そう。ならいいのだけれど。同居している人たちとは上手くやっている?ご迷惑をおかけしたりしていない?」
「当たり前でしょ」
「あなたなら、そう言うと思ってたわ。同い年の男の子とは?シンジ君、だっけ?」
「そう、碇シンジ。何もかもあたしより下で、しょっちゅう、馬鹿ばっかりやってるのよ。もう、情けないったらありゃしない」
「あら、悪い子なの?それともいい子?」
「・・・そうね、人の言うことを何でも聞くのをいい子というなら、そうでしょうね」
「あら、人の言うことを何でも聞いてくれるなんて、アスカにはぴったりじゃない」
「やめてよ、ママ。あいつとはそんなんじゃないわ」
「照れないの。どう、シンジ君と結婚して、そっちに永住するっていうのは」
「前から言ってるでしょう、あたしは結婚しないの。ずっと独り身でいるんだから」
「そんな事を言ってるのも今の内よ。好きな人ができたら、すぐに考えが変わるわ」
「そんな事ない。絶対にないわ」
「はいはい。で?友達とは上手くやっているの」
「もちろんよ。この前も、ヒカリとショッピングに行ってきたわ。ヒカリったら、色々とお店を回ったのに、結局買ったのは靴下とブラウスだけ。後は食料品に回すんですって」
「ヒカリさんのところは色々と大変なんでしょう?誰もが、あなたほど恵まれているわけではないの。気をつけなさい」
「はあい。分かってますって。何だかんだ言って、ヒカリって偉いしね。家事なんか、あたしと違って一通りできるのよ」
「あら、いいお嫁さんになるわね」
「それが、聞いてよ、ママ。ヒカリ、誰が好きだって言ったと思う?あの、トウジなのよ?」
「トウジ君、っていったら、・・・ええっと、ジャージをいつも着ている人?」
「そう。信じられない。ヒカリの男を見る目、もう少しましだと思ってたわ」
「そんなにひどい人なの?トウジ君は」
「話にもならないわ。単細胞だし、いつも誰かと一緒にいて自立性がないし、ミサトみたいな女にはデレデレしてるし、もう、最低な部類に入るわね」
「よく、誰かに迷惑をかけるとか、暴力をふるうとかは?」
「それはない方よ。多少騒がしいことを除けば」
「なら、いいじゃない。暴力的でない、性格は裏表なくさっぱりしている、友達も多くて交流も深い、おまけに年頃の男の子らしく異性に関心がある、つきあうにはいい条件よ」
「ママはトウジに会ったことがないから、そんな事が言えるのよ」
「で、アスカは二人がうまくいくのを止めるの?」
「まさか。その内、ヒカリの目もさめるわよ」
「だといいけれどね。ところで、次の長期休暇の時、こっちに帰ってくる?」
「ううん、しばらくこっちにいることになると思う。許可も下りないと思うし。ま、しばらくはパパと水入らずの生活を楽しんでいて。その内、義母いじめに参上するから」
「楽しみに待ってるわ。じゃあ、またかけるからね」
「うん。またね」
「まったく、電話なんかかけてくるんじゃないわよ、あの女。時間の無駄じゃない」
「本当、母親を演じるなんて、私の柄じゃないのに。早く、あの子も母親みたいに死なないのかしら?」
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